第一章 メビウスの輪１０

声が聞こえる。　　良一が俺を呼んでいる。


声が聞こえる方向に向かって歩き出す省吾。　　省吾を呼ぶ声が次第に大きくなってきた。



なんだこれはっ！！




クリスタルのように輝く透明な壁が目の前に広がっている。クリスタルでも高級なデキャンタのような鮮やかな光の壁だ。

右を見ても左を見ても、その壁は果てしなく続いているようだった。
省吾の視界いっぱいに広がる輝く壁。　しばしキョトンとしている省吾。



お～い！　省吾～～～～！



良一の声が聞こえる。



無限に広がる壁。　省吾は良一の声を頼りに壁伝いを歩いた・・・・。



省吾～～！　どこにいるんだ～～！



良一の声が段々と大きく聞こえるようになってきた。



もうすぐだっ！　良一！待ってろよっ！




何分歩いたんだろう・・・・？　省吾は良一の声だけを頼りに歩き続けた。　


やがて良一の声が最大級の大きさで聞こえたとき、省吾は一瞬我を失ってしまった・・・・・。

良一はクリスタルのように輝く壁の中にいた。




お～い！良一～！　俺だっ！　省吾だ。　俺がわかるかぁ～！



光の壁を思いっきり叩く省吾。　　しかし、その壁は厚く、良一は気づいていないようだった・・・・。
反対側では良一が同じように光の壁を叩いていた・・・・・。　おそらく省吾と同じことをしているのであろう・・・・。

ふと気づいたのだが、良一は省吾が見えていないようだった。　何故だというと、良一と省吾は目線がまったく合っていない・・・。



お～い！良一～！　俺が見えているかぁ～～！・・・・・・・。



やっぱり良一には俺が見えていない・・・。　なんだよこれはっ！　　どこの世界に飛ばされたんだろう・・・・？
いったいここはどこなんだ？　





しばらくの間沈黙が続いた・・・・・・・。






トントン。　トントン・・・。

うつむいていた省吾の肩を誰かが叩いた。



えっ！　何？　誰っ？



振り向いてビックリする省吾。
そこには、マドンナが立っているではないか。



えっ？　何で。　また夢を見ているんだろうか？
マドンナ。　どうしてここに？



私は自由空間を旅する乙女。　省吾君たちの行動も知っていたわ。



どうでもいいけど、良一が違う世界にいっちゃったんだ！　何とかならないの？



大丈夫よ省吾君。　良一君は時空間の「ゆがみ」に流されただけ。　
省吾君は金色の玉を右に回転させたでしょう。
ここは過去の世界の入り口なの。　良一君は時空間のゆがみのせいで、今、私たちのいる、ここの世界よりも１日過去に流されただけ。

飛ばされたとき、きっと良一君は省吾君から離れてしまったのね・・。　　　
今から良一君を助けにいきましょう。




そう言うと、彼女は左手首につけているブレスレットを取り出した。